ただ、伝えたくて。

十年後の世界から戻ったら、言おうと思ってたんだ。
付き合いたいとか、何かを変えたいわけじゃない。
雲雀にしてみれば迷惑な話だってのは分かりきってる。相手は男だし、しかも俺だ。男の、俺なんかに想われたって、うれしくも何ともないだろう。
どうせ報われない想いなら、打ち明ける必要もないんじゃねぇか、と。ただひっそり想い続けてればいいじゃねぇか、と。考えなかったわけでもない。
だったらなぜか、なんて。
そんなの、すっきりしたかったからに決まってる。
苦しかったんだ。
焦がれて、焦がれて。
この感情をどうしたらいいか分かんねぇ。捨てようと思っても振り切れねぇ。
俺の中から、一時も消えてくれない。
告っちまえば少なからず自分の中で一つの結論を出せると思った。
雲雀の答えに、期待はしてない。
玉砕は覚悟の上だ。たぶん俺は、終止符を打つきっかけがほしいんだと思う。
あと三時間。
放課後には、俺は…。















「…………くん…」



朝からずっと落ち着かなかった。昼休みあたりにはすでに心臓がばくばくいってた。
今も自分の鼓動がすげぇデカく聞こえる。
体内の血液はすごい勢いで全身を駆け巡ってる感じがするのに、指先はやけに冷え切った感覚がする。
こんなんで、俺ちゃんと雲雀に伝えられんのか?



「獄寺くん!」
「うわあっ!」



突然、眼前に現れた10代目の顔。驚いて椅子に座ったままのけ反った。
いつこんなにお側に寄っていらっしゃったんだ?



「もう授業終わったよ?帰らないの?」
「へ?」



10代目のお言葉に思わず変な声を上げて、教室を見回せば、さっきまで机に向かっていたはずのクラスメイトはほとんど姿を消して、残っている数人も鞄を持って帰宅の準備をしていた。
マジかよ…。
どれだけ考え事に没頭していたんだろう。終礼にも全然気付かなかった。



「すいません、10代目!あのっ…俺、今日は用事があって、…だから、俺にかまわず10代目は先に帰ってください!」
「そうなんだ。うん、分かったよ」



一瞬きょとんとした10代目は、そわそわしている俺の様子を見ても何も聞かず、にこりと微笑んで。
申し訳なさと感謝の気持ちが相まって声にならない。ひたすら敬礼するばかり。
10代目は苦笑しながら俺の動作を制止して。また明日ね、と。



「では、10代目、失礼します」
「あ、獄寺くん」
「はい?」
「何か悩みとか困ったことがあるなら、いつでも言ってね?最近、獄寺くん、ぼんやりしてること多いみたいだし。何もないなら、いいんだけどさ」



はにかんだ笑顔を見せられた。10代目は本当にお優しい。俺の心配をしてくださる。しっかりしろよ、俺。
さっさとケリ付けてこい。
俺は10代目に深く頭を下げた。ありがとうございます。俺は大丈夫ですから。貴方にご迷惑はおかけしません。そう言って、踵を返した。
雲雀は、もう屋上に来ているだろうか。
呼び出しておいて待たせたとあってはばつが悪い。雲雀のことだから、いないからと怒って、もうすでに帰ってしまったかもしれない。
俺は足早に目的地へと向かう。
放課後は誰も寄りつかないその場所へと繋がる階段を駆け上がって、鉄の扉を壊しそうな勢いで開けた。
視界に広がるオレンジ色に染まりはじめた空とフェンス。



「いねぇ…」



まだ来ていないのか。それとも、やはり先に来ていて、俺が遅いからと校内に戻ってしまったんだろうか。
ホームルームが終わってから、まだそんなに時間は経っていない。
しばらく待ってみたほうがよさそうだ。ズボンのポケットから煙草を取り出し、火を点けて煙を吐き出したところで重大なことに気が付いた。
よくよく考えたら、一方的に待っていると告げただけで、向こうの了承の返事を聞いていない。



「……………阿呆だ、俺」



何やってんだよ。これじゃあ雲雀が来るかどうかも分からない。
俺は声にならない叫びを心の中で上げて、頭を掻き毟った。昨日はあれだけ言うのに精一杯で。まったく、何をやってるんだか。



「煙草は校則違反だって、何回言えば分かるんだい?」



不意に届いた声に俺の肩は大きく跳ねた。気を抜いていたせいもあったけれど、誰もいないと思い込んでいたから尚更ドキリとした。
体を反転させれば、夕焼け空の下、学ランを羽織った待ち人が佇んでいた。



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